さえわたる 音楽・エンタメ日記

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「〇〇してあげる」。一見優しくて心のこもった「へりくだり」的丁寧語。使う相手を間違えると妙な響きに

今日は、敬語のうち「丁寧語」に近い(?)話です。

 

敬語には「謙譲語・尊敬語・丁寧語」の3種類がある。

よく知られているところです。

 

ここでよく「使い間違い」を指摘されがちなのが、

自分を下にへりくだる「謙譲語」

相手を上にたてまつる「尊敬語」

の明確な区別についてです。

 

たとえば、

「言う」を謙譲表現すれば、「(私が)申す」「申し上げる」。

尊敬表現ならば、「(あなたが)おっしゃる」。

同じく、

「来る」の謙譲語は「参る」。

尊敬語は「お越しになる」あるいは「いらっしゃる」になります。

ただ、「いらっしゃる」は「行く」「来る」「居る」の3通り使えるので、ちょっと厄介です。

 

いずれにせよ、慣れていればどうと言うことのない使い分けです。

しかし、相手に対して「いらっしゃいますか?」と言うべきところを「参られますか?」などと「滑稽なミックス敬語」が使われるケースも耳にすることがあって、混乱します。

 

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これに対して、

「丁寧語」はグッとカンタンです。

「言う」なら「言います」。

「来る」なら「来ます」。

と言い換えるだけです。

 

これに似た表現として、相手に何かの行為を施す場合に、一種の丁寧(尊敬)表現として

「〇〇してあげる」

という言い方があります。

「する」の丁寧語は「します」なので、そこからさらに一歩済み込んだ丁寧表現、と言えるかもしれません。

 

「あげる」の言葉から容易に想像できる通り、「自分を下に、相手を上に置く」のが基本であるはずです。

「あなたにプレゼント買ってあげる」

この用法は、「あなた」を敬っている前提なので、何の問題もありません。

 

ところが、意識したはずのこの「上下関係」が、使用する対象によって時に不自然に響く場合があります。

 

ブログ開設間もなく、まだアクセスがまったくなかった頃、この違和感について記事を書きました。

saewataru.hatenablog.com

記事のタイトルの通り、自分が飼い・育てている動植物に対して「〇〇してあげる」が使われるケースが非常に多く見受けられます。

 

「けさ、ペットのネコにエサをあげました」

「毎朝、花に水をあげています」

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発言者の意図するところは、わからないでもありません。

ネコも花も、自分にとっては「かわいくて愛しい」存在。

だから、自分自身をネコや花より「下に置いて」相手を「たてまつる」のでしょう。

「愛情表現」のしるし、なのだと思うことも出来ます。

 

しかしそうは言っても、果たして動植物は人間がへりくだるような「尊敬」の対象となり得るのでしょうか?

「エサやり」「水やり」という名詞も、普通に存在しています。

エサや水は、「あげる」ものではなく、やはり「やる」ものだと思うのです。

 

「ネコにエサをあげました」と話す人は、自分の子どもに対する行為であっても、相手との会話の中で、きっと

「ウチの子どもに、おもちゃを買ってあげました」

などと、何の疑いもなく言うのでしょう。

自分の子どもを「尊敬すべき、崇め奉る存在」として扱っていることになります。

やはりヘンな気がします。

 

どう考えても自分より下の立場にあるはずの存在に「〇〇してあげる」のは不自然ですし、仮に親や会社の上役など立場が上の人間だったとしても、「人前で」を前提とした場合、そうした形で尊敬表現するのは、

「私のお母さんが、〇〇とおっしゃいました

あるいは、仕事の取引先に対して

「ウチの会社の社長さんが、〇〇していらっしゃいました

としゃべるのと同じくらい違和感があります。

 

 

「〇〇してあげる」の対象は、自分の子どもやペットにとどまりません。

その舞台のひとつめが、歯医者での治療。

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削ったり詰め物で対応したり、では手の施しようがなくなると、最悪の場合「抜歯」という悲劇的処置が待っています。

その際のドクターの物言いが…

「この歯は、抜いてあげた方がイイですね!」。

「〇〇してあげる」対象は、患者本人ではなく「歯」。

これも、「歯」の持ち主である患者自身に丁寧に言っているつもりなのかもしれません。

しかし、人間そのものではなく、もはや使い物にならなくなった「歯」に丁寧な言葉遣いをされても、まったく救われた気持ちになれません。

 

もうひとつの舞台が、テレビのクッキング番組。

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料理手順のプロセスで、

「ここで、オリーブオイルをたっぷり入れてあげます」

「鍋の中で、具材をゆっくりと炒めてあげてください」

 

「そうか、いずれ食べてしまう食材や調味料さえも、「〇〇してあげる」と尊敬の対象にしなければならないのか?!」

何とも不思議な気持ちで、料理研究家「センセイ」のありがた~いご説明を「謹んで拝聴して」いたのでありました。