「お言葉ですが」。一見丁寧な表現の背景にあるのは「反論」「対抗」「否定」。その「慇懃無礼」さに苛立ったエピソード~ある銀行にて
ただでさえ使いこなすのが難しい「敬語表現」。
中でも、人にモノを頼む際に敬語をどう使うかは、かなりハイレベルなテクニックが必要です。
代表的なケースとして、先日
「いただく」の多用(乱発)によって却ってヘンな響きになってしまう例を挙げました。
頼む時の敬語も難しいですが、何かしらの話し合いの場で、相手の意見に反論する必要が出て来た場合、そこにどのように敬語を織り込むか?
話がヒートアップしていることが多いので、当意即妙な返しがなかなか出来ないものです。
以前、会社の会議でも議論でもない場面である種の「反対意見」を受け、思わずカチンと来てしまったシチュエーションがありました。
その舞台は、「銀行の窓口」でした。
通常であれば、定年退職時に受け取る「退職金」。
私は数年前に転職したため、通常の定年年齢よりかなり早い段階で、前の勤務先から退職金を受けることになりました。
ちなみに、昨今のギスギスしたご時世ではない、ごく「平時」での話です。
まだまだ「悠々自適」にはほど遠い!
働き続けていかなければ生きていけないし、環境の変化は生活面だけでなく経済面にも及ぶ懸念が大いにありました。
人生でそう頻繁に出会うことのない「長年働いてやっと得たまとまった額のおカネ」を前に、将来の人生設計を真剣に考えなければなりませんでした。
そこでまず向かったのが、学生時代から口座を持っている「マイ・メインバンク」でした。
個人としては
「一世一代の大口資金」。
ですから、前もって連絡して専門のファイナンシャルプランナーにしっかり相談時間を確保してもらえるよう、面談のアポイントをとりました。
当日通されたのは、1階に並ぶ一般の窓口ではなく、2階にある半個室状態の「応接コーナー」でした。
「資金の管理⇒運用」には、無限のパターンがあります。
私は以前のキャリアで「財務部」という部署に所属し、「仕事として会社のお金を運用していた」経験があったので、法人・個人問わずどんな運用の仕方があるか、まあまあの知識は持っているつもりでした。
ですから、
自分なりの「リスク選好」と「相場観」
を明確にもって、面談に臨んだのです。
- リスク選好:「ハイリスクでハイリターン」を目指すか、「ローリターンでもローリスク」を重視するか、の考え方
- 相場観:為替や株式・金利等の経済指標が、今後どのように推移するかに関する見通し
少額であれば、また若い時のおカネであれば、たとえ多少の失敗をしても挽回できるチャンスはあります。
しかし、「後戻り」や「やり直し」が利きにくいトシになってから、しかも会社のではなく自分自身のおカネとなってくれば、その取扱いに慎重になるのは当然のことです。
数々の運用メニューが想定される中で、私が絞り込んで決定した条件は大きく2つ。
多くのリターンは望まず、しかも元本割れを起こさない
上述の「リスク選好」で言えば、ハイリスク商品は選べません。
特に、株式と為替がからむ投資には懐疑的でした。
株式は、株価が上がればその分が「キャピタルゲイン」と呼ばれる「儲け」になります。
また株式を持てば、(その会社がつぶれない限り)定期的な配当が受け取れる。
株価は「超長期的に見れば」右肩上がりになっていくことは、仕事柄体感的に理解していました。
一方その逆もまた然り。
株価には先が見通せず、将来乱高下するリスクも非常に高い。
会社そのものが存続する保証はどこにもなく、つぶれてしまったら終わりです。
為替相場は、上下ともにもっと短期的な変動が激しいです。
外貨預金の金利は、国内の預金(0.01%、0.001%など、実質ゼロ。物価上昇を勘案すれば目減り)に比べれば、ケタ違いに高いです。
しかし、為替変動状況(典型的にはドル円相場)によって、そんなメリットはあっという間に消え去ります。
さらに、日々変動する相場を、神経をすり減らしながら注視しなければなりません。
また、円建て銀行預金では考えられないほど「手数料」がかかりコストが嵩むのも、見落とされがちな注意点です。
通帳残高の「目に見える」減少を避けたい
預金がどれだけ多くても、「取り崩し」によって残高が目に見えて減っていくのは、非常にしのびないものがあります。
たとえ1億円持っていても、わずか1万円ずつの減少が、きっとストレスにつながることでしょう。
そこで、保険のように「前もって掛金を払っておいて、一定期間『寝かせてあたためて』、何年か後になってから年金のような形で定額が『還元』される形にすれば、手元の残高が切り崩されるといった心理的な負担は少しでも緩和されるのでは?」と考えました。
そうした金融商品があることも、知っていました。
ところが、ファイナンシャルプランナーの見解は、率直なところ私と正反対のものでした。
具体的に提案されたのは、
「米ドル以外の外国通貨をベースにした、高リターンの狙える外貨預金」
でした。
事前の電話による面談予約の際、私なりのビジョンの概要をきちんと伝えて提案を依頼したにもかかわらず、です。
窓口となる銀行自体、あるいは銀行と連携している他の金融機関の収益獲得を狙ったものであることは、火を見るよりも明らかでした。
先方も「営業」ですから、商品の良いところばかりを盛んに宣伝して来ます。
ただし、物事には「オモテもあればウラもある」のは常識。
こと大切な資産運用に関しては、良い面だけでなく悪い点も伝えた上で、顧客の総合的な判断を促すのが、専門家としての役目であるはず。
ところが、紹介される商品も、そのスタンスも、私のニーズとは逆行していることが感じられて来て、だんだん苛立ちが湧いてきました。
相手も、「テキトーな言葉で言いくるめるのが難しい、厄介な客だ」と思い始めていたのが見てとれました。
面談は半ば口論に近い議論になり、かなりの長時間に及びました。
すると、話の途中で先方から出てきたのが、
「お言葉ですが、お客様。そのお考えはいかがなものか、と…」
の言葉でした。
「そのお考え」も「このお考え」もありません。
人それぞれ「価値観」があるのです。
また、あめ玉1個買うのとは、話が違う!
一生を考えての、大切な話なのです。
リッパな肩書を持った専門家が、仮にも「客」に対して「お言葉ですが」の言葉を発したことに、怒りを通り越した驚きが。
ビジネス上のタフな交渉の場でも、耳にしたことのない言葉でした。
「お言葉ですが」。
言葉ヅラは、一見丁寧な敬語表現のように思えます。
しかし、その後に出てくる内容は間違いなく強い「反論」「対抗」「否定」。
「心のこもっていない、上っ面だけの敬意」「慇懃無礼」の典型を見せつけられた思いがしました。
もし自分が逆の立場で、客に対してどうしても反論の言葉を述べなければならなくなったとしたら?
使うべき言い回しは、
「お客様のおっしゃる内容も理解出来ます。ただし、逆にこういう見方もあるのではないでしょうか?」
を枕詞にする。
それが常道では?と。
相手の立場を「即座に直否定する」のではなく、まず「相手を立てた」上で対案を出す。
最低限このくらいの日本語、というよりそれ以前の「誠意ある接客マナー」は身に付けておいて欲しいと感じました。
「大切なお金を『殿様商売にあぐらをかいている』この銀行に託すわけにはいかない!」
もうひとつの「メインバンク」に相談を持ち掛けたことは、言うまでもありません。