【リスクマネジメント】起こってしまったあとの「再発予防策」より「事前対応策」の充実が重要。いま流行りの言葉「リスク」とは「危険」ではなく「不確実性」
事件や事故・不祥事が起こった時に、その後の記者会見で必ずと言ってよいほど聞かれるのが、
「今後、再発防止策の徹底に努めてまいります」
のひと言。
事故が起こってしまってから、その原因を深く究明すること。
もちろんそうした行為は、同じような事態が今後繰り返されないようにするための大事なアクションだとは思います。
では、そもそも
事態が起こらないように「未然に防ぐ」準備はできていたのか?
その対策が十分でなかったから、起こってしまったのではないか?
もっとしっかりした「事前対応策」ができていれば、最悪の事態は防げたのではないか?
「再発防止」の言葉を耳にするたびに、いつもそうした思いにかられます。
こうした「事前対応策」を総称して「リスクマネジメント」と呼んでいます。
以前、社内でこれを専門的に扱う部署に所属していたことがありました。
最近非常に頻繁に使われる「リスク」という言葉。
この言葉を耳にするたびに、本来の用法に思いを巡らせています。
「リスク」とは本来、事態が変動する「不確実性」を意味します。
「リスク」というと「危険」と直訳して、「悪い方向性」ばかりを想定してしまいがちです。
「その考え、リスキーだね!」のような用法も一般的です。
しかし、「危険」に対しては「クライシス」という別の単語があります。
「リスク」は、現状が良い方に変化する可能性をもはらんでいます。
業務活動に沿って言えば、リスクマネジメントにはいくつかのステップがあります。
<リスクの特定>=PLAN
現状は何も起こっていないけれど、将来何か起こるかもしれない要因を「想像しながら」洗い出します。
各部署で、ブレーンストーミング的に。
たとえば、
今は1ドル100円だけど、将来為替変動のリスクがある。
「円高」「円安」どちらに振れても「リスク」になります。
円安は、輸出企業にとっては「リスク」ではあっても悪いものではなく、むしろ基本的に「追い風」です。
それが「リスク=不確実性」たる所以です。
今はきちんと決算を行っているけれど、作業に必要なデータが間違っているかもしれない。
誰かが悪意をもって改ざんするかもしれない。
会計システムに何らかの故障が発生するかもしれない。
その「不確実性」がリスクになります。
今は工場の生産活動は順調に進んでいるけれど、設備・機器に何らかの不具合が生じるかもしれない。
天災が起こって、施設が被害を受けるかもしれない。
見えていない「不確実性」、それがリスクになります。
部署ごとに、「リスク=不確実な心配事」の種は無尽蔵にあります。
<リスクの評価>=CHECK
社内のあらゆる部署から集まって来た業務関連の「不確実性」項目が出そろったら、今度はそれを「評価」します。
何事にも「優先順位」があるものです。
懸念があるからと、すべての対策を講じる経済的・人的な余裕はありません。
そこで、その事態が発生する「頻度(確率)」と、起きてしまった際の「インパクトの大きさ」をそれぞれ縦軸と横軸にとり、スコア化して評価します。
しょっちゅう起こることには、しっかり対策を講じておかなければならない。
たまにしか起こらないことでも、起こった時の被害が甚大になることが想定される場合は、やはり相応の対応が必要になる。
リスクの大きさ=影響度×頻度
このスコアが、優先順位を決める際の指針となります。
「考え方」はクリアでシンプルなのですが、実務上担当していた時には、まったく色合いの異なる事象をどう統一的に見るか、「スコアの客観性」を保つのに非常に苦労しました。
<リスク対応実施>=DO
取り組むべきリスクを、実際に「つぶしにかかる」プロセスです。
為替変動の例で言えば、いま持っている資金の一部を現状のレートで固定して為替変動に備える。
決算不正対策であれば、基礎となるデータを単独ではなく複数で相互チェックする、決裁のプロセスを厳格化する。
生産設備の災害対応であれば、十分な在庫の蓄積、設備点検内容やスケジュールの見直し、定期的な避難訓練の実施など。
実務上、この「CHECK」と「DO」は相前後して行われることが多いです。
実際に対応を行った後に、その実績をチェックする意味合いでも、評価は行われます。
<計画改善>=ACTION
こうして行われた対応策を組織全体に浸透させて、実際に行動する。
さらに、時代・情勢の変化に応じて常に最新のリスク把握を行える体制作りが出来るよう、継続的な計画改善に努める。
PLAN・DO・CHECK・ACTION
この4単語の頭文字をとって「PDCAサイクル」と呼び、このサイクルを着実にまわすことが「事前対応策」の強化につながるとされています。
リスクマネジメントは、仕事の場面だけでなく、学校教育の現場でも一般家庭でも、どこにでもあてはまりうる考え方です。
登下校時に交通事故が起こる危険性がある(リスク)
⇒通学路に監視員を置いて、見守りをする。
気候が不順になると、体調を崩しがちになる(リスク)
⇒十分な栄養や睡眠をとり、体調維持・管理に努める。
出かける時、ちゃんとカギをかけたかどうか不安になる(リスク)
⇒指差確認を行う。口に出して「カギ、良し!」を習慣にする。
みな、身近なリスクマネジメントと考えることが出来ます。
「備えあれば憂いなし」は、アタマではわかっているつもりでも、確実に実践するのはけっこう難しいモノがあります。
リスクマネジメントは、実際に起こっていない事象を相手にするがために、しっかり意識しないと実体が把握できなくて、いざと言う時に対応がとれないことがあります。
仕事だけでなく、ふだんの生活からしっかりと取り組みたい事柄です。