【懐かしい歌No.54】「忘れていいの~愛の幕切れ」小川知子・谷村新司(1984)
カラオケで男女のデュエットと言えば、
古くは「銀座の恋の物語」や「ふたりの大阪」
少し新しくても「居酒屋」「男と女のラブゲーム」「3年目の浮気」
などが今でも定番です。
これらは、いわゆる「一般向けデュエットソング」
…と言ったら少し語弊がありますが、要は同じメロディーを1オクターブ差で男女が歌うだけの歌です。
「3年目の浮気」に至っては、男女デュエットのはずが、一緒に歌うパートがまったくありません。
厳密に言うと、「居酒屋」のラストは本来絶妙に(けっこう難しい和音で)ハモる「はず」なのですが、カラオケの場でそれがシングル盤通りに出来ているケースを聞いたことがありません。
もっと高度にハモる、かつ演歌色のないデュエットソングは生まれないものか?!
と思っていたところに1984年発売されたのが、この異色のコンビによる楽曲であります。
小川知子はこの曲が発売されるずっと前の1960年代に、今で言うならアイドル的に活躍していたシンガーの一人でした。
「ゆうべの秘密」「初恋のひと」などのヒット曲を持ちます。
谷村新司は、言わずと知れたアリスのヴォーカルの一人。
長らくソロとしても活動中です。
この「忘れていいの~愛の幕切れ」。
もともと谷村のアルバムに収録されていた曲でした。
それを、彼がデュエット用に作り直したもの。
当時大ブームだった「キンツマ」ことテレビドラマ「金曜日の妻たちへ」が好きだった谷村が、ドラマに出演していた小川にオファーしてこのデュエットが誕生したという経緯があります。
小川にとって、久しぶりに「歌」で注目される作品となりました。
この曲、非常にユニークな構成になっています。
まずは女性の長い「ひとり語り」を行った後、男性が「ト書きのような歌詞」で状況を説明するという珍しいパターンでの展開。
それが2回繰り返された後、いよいよ聴かせどころである「ハモリ」パートに入ります。
二人違う歌詞で、違うメロディーを共に歌います。
小川「手を振るあなたに 心は乱れる」
谷村「さよなら 愛した人よ」
小川「どうかあなた どうかあなた 行かないで」
谷村「どうかあなた 行かないで」
(「どうかあなた」の回数が違う)
「行かないで」のところで、ようやく二人が一緒になってハモる。
6度でハモるという、非常に高度なワザを披露しています。
そしてエンディングでは、大胆な転調のあと男性にメインメロディーが移り、それを3度・4度・6度などさまざまな和音で女性が上からカバーするという、これまたハイレベルなハモリ。
これまでに世に発売されたデュエットソングの中で、これだけ複雑なハモリを持っている歌を、私は知りません。
楽曲そのものではありませんが、この歌で当時大きな反響を呼んだのが、ラストで谷村が小川のドレスの胸元に直接手を入れて歌うシーン。
テレビで初めて見た時、「こんなのアリなのか?!」と驚いたのですが、実はこれは小川側からの提案だったとのことです。
社会人新人の頃、上司に連れられて行った銀座のクラブに、非常に歌の上手なホステスさんがいました。
彼女にお願いしてお店のミニステージでこの歌を一緒に歌ったところ、その日初対面で何の打ち合わせもしていないのに、レコード通りハモることが出来たのです。
ママさんがそれをいたく気に入ってくれまして、ご祝儀でボトル1本キープをいただいた…
そんな、忘れられない思い出もある曲です。