【懐かしい歌No.47】「LOVE IS ALL」椎名恵(1986)
80年代に入ると、時代は女性アイドル真っ盛りでした。
そして80年代半ばになると、「おニャン子クラブ」の登場とともに、まさに百花繚乱の状況を呈するようになります。
もちろん彼女らの中にも、「きちんと歌を歌える」歌い手はいました。
しかし、ただ「若い」ということだけで「アイドル」とひとくくりにされる…そんな雰囲気がありました。
そうした潮流とはまったく別の次元で、歌番組に登場したひとりの女性実力派歌手がいました。
その名は、椎名恵。
今となっては懐かしい「ポプコン」こと「ヤマハポピュラーコンテスト」の出身者です。
1986年のデビュー曲は「今夜はAngel」。
原曲は洋楽で、ダイアン・レインの映画『ストリート・オブ・ファイヤー / Streets of Fire』より「今夜は青春 -Tonight Is What It Means To Be Young-」。
フジテレビ系ドラマ「ヤヌスの鏡」の主題歌に起用され、話題となりました。
アップテンポで激しい感情の曲を華麗に歌いこなすその歌声に、思わず耳を惹かれました。
テレビに初登場した際は、当初後ろ向きでスタンバイし、しばらくの間顔を見せない演出が施されていたために、一層ミステリアスさが漂っていました。
そして、彼女の名を決定的に印象付けたのが、これまた洋楽由来。
シャーリーンの「愛はかげろうのように -I've Never Been to Me-」をカバーした「LOVE IS ALL」です。
これも、ドラマ「おんな風林火山」のテーマソングに起用されました。
デビュー曲からうって変わって、ミディアムテンポに乗せてゆったりと歌い上げるスタイルは、J-POP界に良い意味で異彩を放つ代表作となりました。
「はやり歌」のほとんどは、「主和音」と呼ばれる「ドミソ」のいずれかの音から始まるのが普通です。
曲の最初とラストの締めは、据わりの良い主和音(Ⅰ度の和音)にするのが「王道」です。
カンタンに言ってしまえば、それが人間の耳に心地よく、落ち着くからです。
しかしこの曲は、歌い出しのメロディーもイントロもその鉄則を破り、「ソシレ」と呼ばれる異なる和音(Ⅴ度の和音)からスタートしています。
当初は、曲のキーが何なのか把握できません。
Aメロが進んで行くうちに徐々にそれが解決し、サビの
「女なら 何よりも 愛を選ぶわ」
でようやくきちんと「主和音」が出てきて、「安心する」ことが出来る…
そんな構成になっています。
楽曲の作りももちろんですが、やはり彼女の天性の美声を抜きにしてこの曲は語れません。
低音から高音まで、ムラなく声が響いている。
低音部は「地声」で、そして高音部になると「裏声(ファルセット)」に転じるのが、よくある歌唱法です。
間違いではないのですが、「素人に近い歌手」の場合、声が裏返ったとたん極端に声量が落ちて細くなってしまう。
しかし彼女の歌声からは、その境目が感じられません。
ヴォーカル面の魅力は、そんなところにもしっかりと現われています。