【懐かしい歌No.72 ふるさとを想う温かい気持ちを胸に】「驛舎(えき)」さだまさし(1981)
本日の歌は、さだまさしが1981年に発表した「驛舎」(えき)です。
当初は「グレープ」という2人組ユニットでデビュー。
1974年に「精霊流し」がヒットし、その名を知られるようになりました。
当時ステージでヴァイオリンを弾きながら演奏する姿は、はやり歌の世界では珍しく、同じ楽器を演奏する者として興味を惹かれました。
以降、グレープとしては「朝刊」「無縁坂」などがヒット。
1976年にソロ転向してからも、歌詞の内容が一種の物議を醸し社会現象にもなった「関白宣言」をはじめ「道化師のソネット」「防人の詩」などのヒット曲を世に送り出しました。
そんな中、現在一番世の中に知られているのは、歌詞のない「ア ア~ アアアアア~」=「北の国から」のテーマかもしれません。
楽曲から受けるイメージとは対照的に、陽気なおしゃべり好きのキャラクターで知られ、ライブでは3時間のうち1時間またはそれ以上がMC。
その内容はほとんど漫談や落語の域に達しており、落語家が師匠に
「さだまさしのコンサートに行って、話芸を勉強して来い」
と命じたという、本当か冗談かわからないエピソードがあるほど。
いろいろな話題作・名作を生み出している彼ですが、個人的に最も印象に残っているのがこの曲です。
この「驛舎」(えき)は、都会から帰郷した女性を、ふるさとで待っていたであろう男性が田舎の駅で待っている情景を描いたものです。
慣れない環境の都会で、言い知れないいろいろな苦しみを味わってきたであろう、小さな包み2つだけの手荷物を抱えて戻って来た彼女を、地元の駅で待ち、言葉をかけながら温かく出迎える。
「ゆうべ一晩 泣き続けていたような そんな目をしてる」
「ふるさと訛りの アナウンスが今 ホームを包み込んで」
「都会でのことは 誰も知らないよ 話すこともいらない」
「驛に降り立てば それですべてを 忘れられたらいいね」
具体的な情景がすべて詳しく説明されているわけではありませんが、個々の言葉になんとも言えない優しさがあふれています。
結びの歌詞は
「改札口を ぬけたならもう ふるさとは春だから」
季節も確かに春なのかもしれませんが、都会での「冬」を乗り越え、懐かしい故郷に帰って来て、心も身体も暖かい「春」に包まれている、そんな風にも解釈できます。
タイトルに使われている旧字体の「驛」も、ノスタルジックな印象を与えています。
アコースティックギターとピアノのアルペジオ・ストリングス主体のスローテンポなバラードタッチの曲調も穏やかで、(本人作詞・作曲なので当然と言えば当然ですが)言葉とメロディーが美しくマッチしています。