【懐かしい歌No.65】「Everything」MISIA(2000)
2000年の10月。
世紀末ギリギリに発売されたこの曲の大ヒットで、MISIAは数ある歌手の中で何かしら
「特別感のあるシンガー」
に位置付けられたような印象があります。
その圧倒的・パワフルな歌声。
豊かな歌唱力・表現力。
そこは文句なく評価できるところですが、音楽的に分析する云々以前に、彼女の存在そのものが「別格」になった感じです。
デビュー曲は、ファンキーなスウィングのリズムに乗せたダンサブルなR&Bナンバー
「つつみ込むように」。
幼い頃からゴスペルに馴染み、デビュー前からみっちりと本場のトレーナーによるヴォイストレーニングを受けていただけあって、その日本人離れしたヴォーカルの迫力は満点。
スタートとしては十分「大成功」と言えるヒットとなりました。
以降も順調にベストテンヒットを重ねてきたMISIA。
そして、デビュー曲とはまったくテイストの異なる、運命の「Everything」と出会います。
イントロから流れる、「並大抵ではない」スケールのバラードを予感させる壮大なストリングスのアンサンブル。
ピアノやエレクトリックピアノも交えながらのサウンドの中、1番を歌い出す前に、ドラマチックな展開を思わせる、歌詞のないヴォーカルがひと声入る。
これだけですでに「つかみはOK!」です。
スタンバイ段階で十分雰囲気を盛り上げておいた上で、Aメロがようやくスタートします。
構成は、「王道」とも言えるAメロ-A-B-C(サビ)。
ただし、これも曲によってそれぞれのメロディーの内容が微妙に異なります。
通常のポップスでは、とにかく「サビ」のインパクトに早く導くために、Aメロ・Bメロは相対的に「軽めに」作られます。
中間部のBメロは、特に。
「軽めに」とは、具体的には小節数を「短く」。
ところがこの曲では、お待ちかねのサビフレーズ
「You're everything~」
にたどり着くまでに、イントロから含めて2分以上かかっている!
テンポが遅いのは、もちろんその大きな要因です。
さらに拍車をかけるのが、途中の「Bメロの長さ」の際立ち方です。
短いアップテンポナンバーであれば1曲終わってしまうほど、じっくりとゆっくりと時間をかけて「最高潮」に持って行っています。
並みの歌唱力の歌手だったら、途中でそこまでたどり着くパワーに打ち負かされてしまいかねないほどですが、この曲では逆に、どんどん先への期待が高まっていきます。
それぞれのフレーズの中で、派手に上下動を繰り返し、低音域から高音域までを巧みに織り込んでいるメロディーラインの秀逸さがそれを支えているのは、言うまでもありません。
コード進行も、逐一細かくは述べられませんが実に高度で複雑。
さらにエンディングではキーを「+1」させて、さらなる盛り上がりを演出しています。
ラストはヴォーカルだけが残されて、そこはかとない余韻を漂わせる…
MVの秀逸さも含め、一編の短編映画でも見せられたかのような「重厚感」が、余韻として漂います。
「紅白」にも「特別枠」として出場し、アフリカの砂漠からの中継で歌ったり、昨年はこの曲の別アレンジで紅組のトリを飾ったり。
ここでも「別格感」を遺憾なく発揮しています。
その後も、スケール感あるバラードを何作か発表していますが、現在も「絶対的な代表作」 となっている楽曲と言えます。