【懐かしい歌No.66】「Woman」フランク永井(1982)
1955年にジャズ歌手としてデビューするもヒットが出ず、ほどなく歌謡曲歌手に転向。
1957年に発売された「有楽町で逢いましょう」が、当時空前の大ヒットとなりました。
この曲は、以前有楽町駅前にあった「そごう百貨店」(現:ビックカメラ)のキャンペーンソングという異例のエピソードを持つ「東京のご当地ソング」でした。
以降も「夜霧に消えたチャコ」、現代でもデュエット曲の定番として歌い継がれている「東京ナイト・クラブ」などのヒットを経て、1961年には「君恋し」でレコード大賞(当時は、「紅白」と並んで歌謡界の権威ある大イベントだった)を受賞しています。
少し時代が下ったところでは、1977年に発売(1966年B面であったものをA面として再発売)した「おまえに」がロングヒット。
紅白に連続26回出場の実績も持つ「国民的人気歌手」。
「低音の魅力といえばフランク永井」と言われる、特に低音域の声に定評のある実力派人気歌手でした。
このように、主な活躍時期は1950年代から60年代にかけて。
歌どころか人物自体、ご存知ない方がほとんどでしょう。
私もリアルタイムでは聴いたことのない曲ばかりです。
しかし、「オトナの歌手イコール演歌歌手」の時代背景の中で、ジャズ出身らしく「非・演歌」のモダンな作品を発表し続けていた彼の存在は、幼い頃から強く意識の中にありました。
そんな中1982年に発売され話題となったのが、この「Woman」です。
往年のヒット作から感じられる「古風な」イメージが耳に馴染んでいた身にとって、それまでとはまったく異なる現代風の曲調は、まさに衝撃的でした。
実は、あの山下達郎が、大先輩であるフランク永井に向けて提供した楽曲だったのです。
この異色のコラボレーションがきっかけとなり、それまで演歌(ブルース)歌手のイメージが強かった森進一が翌1983年、まったく畑違いとも言える松本隆作詞・大瀧詠一作曲による「冬のリヴィエラ」を発売した、とも言われています。
彼の持ち味の低音域を生かしたメロディーラインに、洋楽のスタンダードナンバーをもイメージさせる洗練されたサウンドとコード進行。
この曲はハ長調なのですが、たとえば冒頭の4小節だけ見ても、
C、Caug、C6、Gm6/B♭、Aaug…
など、いかにも山下達郎らしい複雑きわまりないコードを当てはめています。
また、ミディアムな16ビートのリズムもなかなかの味わいです。
このポップなビートにうまく乗れないと、歌いこなせない流れの音符になっています。
Aメロ-Aメロ-Bメロ(サビ)プラスCメロまである構成から見ても、懐メロではなく完全にJ-POPジャンルと呼べる作品です。
歌詞の面での特徴も。
伝統的にニッポンの歌は、日本語の調べとして(短歌や俳句、都都逸のように)、歌詞が7文字プラス5文字を基本に構成されることが多いのですが、この曲のサビは6文字ずつの連続。
細かいことですが、ニッポンのはやり歌にはなかなかないスタイルです。
歌い手側の変貌ぶりもさることながら、当時20代にしてこのサウンドを完成させる山下達郎の音楽センスに、今さらながらただただ脱帽です。