イントロ・Aメロ・Bメロ・サビ…「サビ」の語源は?演歌にはCメロサビがない?「命くれない」をサンプルにプチ解説
これまで歌の記事をたくさん書いて来て、平気で
Aメロ・Bメロ・サビ
の話を展開してきました。
一般にもよく使われているであろう、歌の「サビ」という言葉。
この「サビ」が何に由来するものなのか、意識したことがありませんでした。
語源については、いくつかの説があるようです。
真っ先に思い浮かぶのは「ワサビ」です。
ワサビのことは略して「サビ」とも言います。
ワサビを使う代表的な料理、寿司の中でワサビは少量でも刺激的であることから、歌の中で最もインパクトのある部分を「サビ」と呼んだ、という説があります。
刺激から派生して、「変化が出る」あるいは「盛り上がる」フレーズのことをサビと呼んだとも言われています。
しかし、
歌で「サビ」といえば、イントロや間奏も含め繰り返して使われる「メインメロディー」のこと
であり、「刺激的」ではあっても「少量」ではない。
しかも、寿司であればメインはネタであり、ワサビはあくまでも脇役。
これだけでは「説明しきれない感」が残ります。
もう一つは、日本の伝統的な文化・美意識である「侘び寂び」(わび・さび)が由来の説。
俳句で最も美しい部分を「寂び(サビ)」と名付けて、それが元であるとの説明もありますが、「寂れる」「寂しい」の文字のニュアンスは、歌の中で最も目立つ部分である「サビ」とはむしろ逆のものに思えます。
しかし、本来の寂び(サビ)という言葉は、「寂声」、つまり「低く凄みのある声」という意味でした。
これが拡大解釈されて「(低くはない)最も盛り上がる、聞かせどころ」になっていったとする説です。
語源はともかくとして…
この「サビ」を楽曲の構造から見てみると、
ポップスや歌謡曲と呼ばれるジャンルには明確に「ココ」と呼べる箇所があるのですが、演歌のメロディーにはない
ことに気づきます。
記事のタイトルにも挙げたように、ポップスはほとんどのケースで、ワンコーラスの中に「Aメロ・Bメロ・サビ(Cメロ)」プラス場合によって「大サビ」「Dメロ」などと呼ばれる形式に則って楽曲が構成されています。
しかも、
サビフレーズはほとんどの場合ワンコーラスの中に繰り返し登場する。
従って、そこが「聴かせどころ」ということが楽曲構成面でも明らかにわかるようになっています。
ところが、演歌のワンコーラスのメロディーラインはそうした「法則」では作られてはいないのです。
そもそもAメロ・Bメロ・Cメロといった区分がなされていません。
「演歌」と呼ばれる歌は数限りなくありますが、こうした「楽曲構成」の説明のために、この連載では初めて典型的な「演歌」を取り上げてみました。
「盛り上がり」や「サビ」っぽい構造の演歌を探しました。
「命くれない」。
この1曲で、30年以上芸能界で活躍し続ける瀬川瑛子です。
演歌でヒットを1曲持つことの「強み」は、絶大そのものです。
その独特な歌声と、天真爛漫(?)なキャラクターで、高い知名度を誇っています。
演歌歌手とか言えば着物のイメージですが、彼女は一貫してドレス姿です。
演歌の音楽家の中には
「生まれる前から 結ばれていた そんな気がする 紅の糸」
までがAメロ。
「だから死ぬまで 二人は一緒 あなた おまえ 夫婦みち」
がBメロ。
がCメロのサビ。
そう唱える説もあるようです。
確かに、タイトルフレーズは高音部が使われており、盛り上がってはいる。
巧みなメロディー運びです。
しかし、ポップスの構造のように「繰り返されるサビ」はない。
歌詞の上では「命くれない」が2回繰り返されていますが、違うメロディーが当てられています。
これまで連載で述べて来たポップスの曲の世界で、Aメロやサビに当たるCメロは、通常同じメロディーが「繰り返されて」印象深いフレーズを生み出す作曲技法が一般的であるのとは対照的です。
やはり、ポップスと演歌では根本的に「作り方」が違っているのです。
もちろん、聴いた印象だけで「これはポップスだ」「これは演歌だ」とわかりはしますが、楽譜上でも両者の違いは区別・検証することが出来るのです。