【懐かしい歌No.37】「メランコリー」梓みちよ(1976)
梓みちよという歌手自体、時代的にご存知ない方が多数派かもしれません。
宝塚音楽学校からワタナベ・プロダクションのオーディションに合格、1962年に歌手デビュー。
翌1963年、20歳の時にリリースした「こんにちは赤ちゃん」がミリオンセールスに。
NHKの人気番組の挿入歌だったこともあり、国民の誰もが知る大ヒットとなりました。
その後も定期的に新曲は発売していたのですが、セールス的には不遇の時期が続きます。
「こんにちは赤ちゃん」での(今で言えば)清純派イメージが強すぎて、次のステージに進みあぐねていたのだと思います。
そして30代を迎えた1974年、彼女は「これがあの『こんにちは赤ちゃん』を歌ったのと同一人物なのか!」と驚くほどの超大胆なイメージチェンジをした新曲を発売します。
それが「二人でお酒を」。
かつてのアイドルイメージを完全に払拭したオトナの別れの歌を、味わいたっぷりに歌いこなしました。
またステージでは、1番を歌ったあとの間奏で、ドレス姿のままなんと床に「あぐら」をかき、2番はその格好のまま歌ったのです。
この前代未聞のパフォーマンスは、当時大きな話題となりました。
かくして彼女は、デビュー10年以上を経て、「別人格の歌手」として見事なカムバックを果たすのです。
さらにその2年後の1976年に発売されてヒットしたのが、この「メランコリー」。
当時フォークの世界で圧倒的な存在感を示していた吉田拓郎の作曲です。
1974年、演歌(ブルース)歌手だった森進一に「襟裳岬」を提供し、話題になっていました。
そんな拓郎が、やはり「畑違い」とも言える彼女に書き下ろした楽曲です。
「メランコリー」、日本語で言えば「ユウウツ」。
ミディアムなテンポとリズムの中に文字通り秋の気だるい雰囲気を感じさせる、当時としては異色のサウンドでした。
メロディーラインも、J-POPのスタンダードとも言える「Aメロ~Bメロ~サビ」の流れが規定しにくい、きわめて独特な流れになっています。
そんな中での、構成上のインパクト。
タイトルフレーズが繰り返され、メロディーが短調から長調に転じた部分で登場する歌詞の部分に「サプライズ」がありました。
「それでも乃木坂辺りでは あたしはイイ女なんだってね」のくだり。
それまでの歌謡曲に登場する東京の地名は、「銀座」「新宿」「池袋」「上野」、少し時代が下って「渋谷」「六本木」ぐらい。
全国区の大きな街ばかりでした。
そこに突如現れた「乃木坂」という地名。
今でこそメジャーな地名になりましたが、当時は知る人ぞ知るエリア!
当時からオトナの街として有名だった六本木の隣町ですから、この歌の舞台としては違和感はなく、むしろイメージにフィットしていると思えますが、あえてこの地名を選んだ作詞家・喜多條忠のセンスに脱帽です。
当時33歳とは思えない、オトナの雰囲気漂うルックスと表現力に圧倒されます。
出だしのメロディーは、女性としては「超低音」です。
マイクの持ち方や衣装、歌っている最中の表情の変化にも、彼女独特の持ち味が垣間見えます。