【懐かしい歌No.33】「イルカに乗った少年」城みちる(1974)
1970年代の男性アイドルブームを、ほんの一時期ではありますが彩ったひとり、
城みちる。
「ちびまる子ちゃん」で、いつもはおとなしい山根クンが夢中になっている「実在のアイドル」(!)です。
セールス実績的にはこのデビュー曲がピークで、その後10枚のシングルを発表しますが、3年後には事実上の芸能界引退。
しかし、家業を営むかたわらで「あの人は今」的な番組には時々顔を出し、60代となった今もアルバムを出すなど、地道に活動を続けているようです。
童顔のルックスと細身の体型が当時の女性に人気…。
と、外見の評価ばかりが先行していましたが(そういう時代でした)、今改めて聴き直してみると、当時16歳の歌声としては非常に完成度の高い、また見た目とは裏腹に低音がよく響く、堂々たる歌唱力だと感じます。
メロディーやサウンドは、時代を感じさせる響きです。
興味深いのは、歌詞のスタイルが伝統的な演歌と同じ「七五調」をしっかり守って作られていながら、メロディーラインはポップスである点です。
さみしいときは うみにきて
すいへいせんを みてごらん
そらとうみとの すきまから
いるかにのった しょうねんは
このように、字数がキレイに揃っています。
現在のJ-POPでは、なかなか見られないスタイルです。
こういう規則正しさが、今聴くと古くさく感じられてしまうのかもしれません。
彼がデビューした当時は、たとえ10代のアイドルであっても、ソロが基本。
単独での能力が試されます。
当時は当時で、もっとオトナで歌唱力・表現力に優れた歌手が同時に活躍していましたから、どうしても彼らと比較すると若さ・未熟さが表に出てしまいがちです。
「プロの歌手なのだから、一般の人より秀でていて当たり前」という風潮が、今よりもずっと強かったような気がします。
自分自身も、若手の歌手の歌いっぷりを耳にしながら、
「しょせんアイドルなのだから」
とひとくくりに扱い、
「ルックスさえ良ければ、肝心の歌はどうでもよいのだ…」
と感じていたフシがありました。
でも、実態は必ずしもそうではなかった。
20代30代の歌手たちの「成熟度」はより高かった、と言えるのかもしれません。
実際、今も残されている当時の動画を見ると、リアルタイムの時はこれが当たり前と感じて聴いていた歌が、実は非常にハイレベルなヴォーカルで成り立っていたのだと気づかされることがあります。
ただ、そんなこんなも「個人の勝手な思い入れ」。
世間的には「昔の歌だから」のひと言で片づけられてしまう…
ちょっと寂しい話です。
ジャンルはまったく異なりますが、同じく親しんでいるクラシック音楽の世界では、200年300年というある意味途方もない時代を経ても、いまだ「現代も息づく音楽」として高く評価され、演奏が繰り返されています。
同じ音楽でありながら、「はやり歌」の生命はつくづくはかないものだ、と感じざるを得ません。
現在のグループアイドルポップスと比較すると、「アイドル」とひとくくりに出来ないほどの歌声に改めて驚かされます。