さえわたる 音楽・エンタメ日記

オリジナル作品紹介、歌の解説、ヴァイオリン演奏、言葉の使い方、エンタメニュース、旅行記などについて綴っています

【懐かしい歌No.1】「朝日のあたる家」ちあきなおみ

 連載している「ソロアイドル史」も1970年代が終わり、次は80年代に入りますが、この「はやり歌とともに」カテゴリーでは、歌を歌い、歌を作り、歌を愛する私が心惹かれる歌の数々も同時に取り上げていきたいと思っています。

 

その第1回目は、今昔多数(自分が生まれる前に活躍していた歌手も多数含まれます)出会った中で最も素晴らしいと感じている歌手、ちあきなおみです。

 

1992年に芸能活動を休止して以来、表舞台から姿を消してしまっている彼女。

年代的にも、もはや彼女の存在自体を知らない人々の方が多いのかもしれません。

少し上の世代の方であれば、札幌オリンピックが開かれ、沖縄が本土復帰した1972年、まだ一般大衆の間で権威(?)のあったレコード大賞を(「瀬戸の花嫁」がとるだろうとの下馬評に反して)「喝采」で獲得した歌手、ぐらいの記憶はあるかと思います。

80年代に入ってから、コロッケがこの曲を形態模写して「面白おかしく」クローズアップされた時期もありましたが、本当は亡き愛する人を思う(歌詞の中に「黒いふちどりがありました」「喪服の私は」といった言葉が入るのは衝撃的だった)悲しい歌なのです。

 

その「喝采」は、デビューから4年目での大ヒット。

25歳の若さだったとは思えぬ貫禄ある歌唱にグッと引き寄せられるものがありましたが、今回ここで取り上げるのはオリジナルのヒット曲ではなく、もともとアメリカ民謡(フォークソング)だったメロディーに浅川マキが歌詞を付けた「朝日のあたる家」です。

「洋楽」なので、ボブディランバージョン、アニマルズバージョンなどが知られていますが、やはり日本人には日本語詞がしっくり来ます。 

 

ちあきなおみに関してはほかにも挙げたい歌がたくさんある中で、爆発的にヒットしたわけでもない(そもそもヒットチャートにも上っていない?)この楽曲を選んだのは、単に歌が「ウマイ・ヘタ」の次元では語り尽くせない、歌の世界を「演じる」ことの出来る彼女の稀有な魅力がこの5分の中に凝縮されていると感じたからです。

通常、現代のヒット曲はAメロBメロがあってサビがあって、という構成ですが、この歌、ワンコーラスが8小節しかありません。

童謡並みの短さです。

メロディー的にはシンプルな構成のはずなのに、それをまったく感じさせない。

極限のスローテンポに乗せ、その8小節ごとにすべて違った世界を歌い分けています。

 

また、普通は生歌よりもCDの方が(レコーディングのやり直しや加工がいくらでも利くため)うまく聞こえるものですが、彼女の場合は(もちろんCD音源も良いのですが)ステージで実際に歌っている姿の方がはるかに迫力があります。

とにかく、歌う「表情」にただただ圧倒されるのです。

間奏パートでさえも、「朝日楼という名の女郎屋」…娼婦に身を落とした女性の切なさを、表情と全身の動きで表現しています。

「歌」を超えた、ひとつのドラマを見せられた気分になります。

 


ちあきなおみ 朝日のあたる家 Naomi Chiaki - House of The Rising Sun [Live] 1989