【懐かしい歌No.93 夏の終わりに沁みる1曲】「ガラス越しに消えた夏」鈴木雅之(1986)
グループ「シャネルズ」が結成されたのは1975年のことでした。
そして、5年後の1980年。
グループみなが顔を黒く塗り、それまでのJ-POPにはなかった「ドゥ・アップ」というブラックミュージック独特のリズムに乗せて歌った「ランナウェイ」がヒット。
サウンド的にも、ビジュアル的にも、「衝撃的」な登場でした。
その後も同じ路線で「ハリケーン」「街角トワイライト」と立て続けにヒットを飛ばし、活動は順風満帆に見えました。
ところが3年後、知名度の上がって来たグループ名を突如変更して「ラッツ&スター」に。
(ちなみに、アルファベット表記すると「RATS & STAR」で「回文」になっています)
「なぜ?」という思いもありましたが、早めのイメージチェンジもひとつの「作戦」だったのかもしれません。
それが功を奏して、「ラッツ&スター」として最初のシングル「め組のひと」も、化粧品メーカーのCMタイアップが付いて再びの大ヒット。
締めのフレーズ「目ッ!」が、なんともキャッチ―な曲でした。
次のシングル「Tシャツに口紅」もヒットしましたが、2年ほどで活動休止。
グループとしての活動期間は長くはありませんでしたが、数年間でこれだけの話題作を生み出したことは、素晴らしい実績でした。
ところが、リードヴォーカルを務めていた
は、「過去形の歌手」にはなりませんでした。
「ドゥ・アップ」時代から高い歌唱力を誇っていた彼でしたが、曲調が明るく軽快なテンポの楽曲ばかりであったため、「じっくり歌い上げる」ナンバーも聴いてみたい気持ちをずっと抱いていました。
そんな思いが、「ラッツ&スター」の活動休止のすぐ翌年、ソロデビュー曲にしてすぐに叶えられたのです。
大沢誉志幸が作曲し、布袋寅泰をギターに迎えての豪華なラインアップ。
別れる「君」に思いを寄せる切ないラブバラード
「ガラス越しに消えた夏」
の完成です。
これもCMタイアップが付いて、「ヴォーカリスト・鈴木雅之」の名を世に知らしめるヒットとなりました。
この曲で「紅白」にも出場しています。
終わりゆく夏の情景。
「♬さよならを繰り返し 君はオトナになる~」
の印象的なサビフレーズの歌詞。
圧倒的なヴォーカル力に、思わず心惹かれます。
イントロから1番が終了する辺りまで、そんなヴォーカルを生かすために、バックのサウンドは最小限に抑えられています。
シンセサイザーの奏でる和音と、わずかばかり聞こえるドラム。
通常サウンド全体を下支えするベースの音が、そこにはありません。
それが却って、幻想的な情景を象徴するかのようです。
その後、実姉の鈴木聖美の歌手デビューのサポート役としても活躍。
さらに、彼女と組んでリリースした「ロンリーチャップリン」は、現在でも親しまれる男女デュエット曲のスタンダードナンバーとなりました。
また、「どうみても声質的に相性が合わないだろう」と思われた菊池桃子ともデュエット。
「渋谷で5時」が話題作となりました。
彼のトレードマークであるサングラスのおかげか、40年前のデビュー時からほとんどイメージが変わっていません。
そして、歌をじっくり聴かせることの出来る高い表現力も、いまだ健在です。