【懐かしい歌No.41】「花の時・愛の時」前川清(1987)
前川清の名前は知っていても、ソロとしてリリースされたこの歌を知る方はおそらくないのでは、と思います。
内山田洋とクールファイブのリードヴォーカルとしてデビュー。
「ご当地ソング」の代表格とも言えるあの大ヒット曲「長崎は今日も雨だった」の歌声の主は、なんと20歳の青年でした。
考えられません!
グループの時は、「中の島ブルース」「そして神戸」「東京砂漠」などに代表されるように、ムード歌謡と演歌の中間を行くような曲が多く歌われました。
ソロ転向後は、さまざまな作家とコラボを行い、持ち前の高い表現力で幅広いレパートリーを残しています。
紅白にもグループ時代・ソロを含め29回も出場しています。
ただしNHK側の意向で、その年に発表された歌ではなく、昔のヒット曲を何回も歌わされるパターンが非常に多かった。
しかし、あまり多くの支持を集めなかった歌の中にも、名曲はたくさんあります。
特にソロになってからは、クールファイブ時代とはイメージの異なる歌に多く取り組んでいます。
ソロデビュー曲となった「雪列車」(糸井重里作詞・坂本龍一作曲のコンビ)。
中島みゆき作詞・作曲による異色作「涙」。
福山雅治が楽曲を提供した「ひまわり」。
どれもそれぞれ違った色合いがあり、素晴らしい。
まさに、何でも歌いこなせる随一の歌唱力の持ち主だと感じさせられます。
そんな中、迷いに迷った末「この1曲」として選んだのが、「花の時・愛の時」です。
なかにし礼作詞・三木たかし作曲のもと、演歌色のまったくない本格的なバラードに仕上がっています。
冒頭の歌詞が
「君が部屋を出た後 僕はじっと動かない」
で始まっているため、一瞬恋人が立ち去ってしまった別れの歌かと思うのですが…
実は、「君」が去った後もその余韻に浸っていたい主人公の心情が語られる序章なのです。
君の残り香に酔いしれ、君の弾いたギターの弦は切れたまま、君の読んだ本は読みかけのまま…
「また会えるのに 今すぐに会いたくて 切なくなる」
のサビで、抑えきれない愛情が一気に噴出する仕立てとなっています。
1番を受けて、2番の「恋はため息か 恋はときめきか 恋は愚かな悩みか」の呟きも、作詞家のなかにし節全開の効果的な演出です。
サビのロングトーンフレーズは、聴くのはもちろんのこと、歌っていても気持ちの良いところです。
オリジナルのシングル盤では、ピアノとストリングス主体でアレンジが組み立てられており、スタンダードで飽きの来ないサウンド構成になっています。
カラオケでオンステージをやると、「えぇ、こんな歌あったの?!」と驚かれる曲でもあります。