低金利に悩む資金運用につけ込むオイシイ話。決まってメリットだけをアピールする指南本・PR情報、銀行も。その名は「投資信託」
低金利が長期間継続している日本経済。
100万円を銀行に預けても、1年で100円も利子がつかない
そんな時代です。
ヘタをすれば、ATM1回の手数料で吹っ飛んでしまうほどの額です。
将来の物価上昇を考えれば、かえって目減りしてしまいかねないとも言えます。
「もっと有利な運用術はないものか?」
そう考えるのは、ごく自然の成り行きです。
私は、かつて勤務先で「財務部」に所属していました。
ひと言で言えば、「ビジネスで必要なおカネをどう調達し、持っているおカネをどう運用するか」が仕事です。
会社には何十億・何百億のキャッシュがあり、かつ日々のビジネスで大きな出入りが発生する。
しかもそのおカネは、円だけでなくドル・ユーロ・中国元をはじめさまざまな通貨が行き交う。
刻々変動する為替相場や金利動向を見つつ、会社としての目先の資金繰りを念頭に置きながら、いかに効率的におカネを回していくか・・・
いくつもの部署を渡り歩いた中で、一番胃の痛む職場でありました。
「仕事として資金運用」を行って来て、身を持って思い知ったのは、
「有利なリターンを得るためには、それを上回る『リスクヘッジ』(対応・回避策)を行わなければならない」
という「当たり前過ぎる事実」でした。
「プラスを多く得ようとすれば、相応のマイナスの可能性も覚悟」しなければならないのです。
そこまでスケールの大きな話でなくても、たとえば個人レベルである程度まとまったおカネを手にして、どう「貯めて殖やすか」は常に気になるところではあります。
その中で、銀行預金・郵便貯金のような「実質ゼロ金利」よりは利回りが高く、またそれほどリスクの高くない運用方法としてよく取り沙汰されるのが
「投資信託」
という運用商品です。
おりしも先週この件について、Shotaさんが「書評」の形で記事に取り上げていらしたので、注目して拝読しました。
Shotaさんは
「ビジネス書に書いてあること全部やってみた」
のタイトルで、ビジネスに関係する良質なお役立ち情報を毎回提供して下さっています。
その内容は記事に詳しく書かれているのですが、私なりに要点をまとめると
- 銀行や証券会社といった「金融のプロ」に運用を任せられる
- その「プロ」がさまざまな株式に投資して(実際は株式だけでなく債券投資もあります)、キャピタルゲイン(株価の値上がり益)や配当などのリターンを得てくれるので、投資初心者は何もしなくても(知らなくても)OK
- 金融の世界では「ポートフォリオ運用」と呼ばれる「分散投資」を行い、仮に一方で大きなマイナスが出ても、もう一方のプラスでカバーできるので、全体としてバランスのとれたリターンが期待できる
- 1万円単位の少額から始めることができる
- 運用を委託することによる「手数料」はかかるが、きわめてゼロに近い安価である
- 平均的には、金利プラス5%ぐらいの運用成果が得られる(この運用実績数値には、個人的にはやや違和感)
いかがでしょう?
「イイことずくめ」の夢の世界のように思えます。
ここに挙げられていることに「間違い」はありません。
Shotaさんの詳しいご解説ぶりも実にわかりやすく明快で、素晴らしいものでした。
一方、私は仕事で「投資信託」の4文字とはイヤというほど付き合って来ました。
元本割れの危機にも直面して、さんざんイタイ目に遭って来ました。
そうした経験からすると、もし本が書評記事の内容だけで終わっているとすれば、「途中尻切れ感」を禁じ得ません。
100万円を銀行に預ければ、利子はつかない代わりに「元本割れ」することはありません。
しかしこれを投資信託に回せば、年に5%以上の利回りが期待できる代わりに、(「金融のプロ」による安全策は講じられるものの)「元本割れ」の危険性がゼロとは言えないのです。
投資先である株式相場は、長期的には上昇が期待出来るものの、乱高下が避けられません。
記事に紹介された本自体を読んではいないので、断定的なことは言えないのですが、
「投資信託の良い点=メリットは書かれているが、表裏一体であるはずの注意すべき点=デメリットについては触れられていない」
ように思えました。
筆者としては「デメリットの判断は自己責任で」のスタンスで、あえて書くまでもないと判断したのでしょうか?
それとも、ちょっとイジワルな見方をすれば、「デメリットに触れたら、読者が危険を感じて本が売れなくなる」とでも考えたのでしょうか?
言うまでもなく、Shotaさんの記事に対する批判ではありません。
こうした「指南本」を出版するのであれば、またそれが「初心者向け」を謳うのであればなおのこと、
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
の精神を「注意すべき重要なポイント」として書き添えるのが親切ではないか?と感じたのです。
メリットとデメリットは、常にセットで語られなければなりません。
特に、この種の商品で示される「リターン=利回り」とは、
- 過去の運用実績に基づくものであり「確定ではない想定」
- 決して「将来も同じ水準を保証するものではない」
ことに注意が必要です。
おりしも先日、個人的な資金運用について銀行に相談に出かける機会がありました。
そこで話題に上った投資商品の中には、もちろん「投資信託」も含まれていました。
仕事柄、そのリターン・リスクについては人並みに知っているつもりでした。
ところが、本来ならば全幅の信頼を置きたい「金融のプロ」たる担当者のスタンスは首尾一貫して
「メリットばかりを力説し、デメリットには一切触れようとしない」ものでした。
その大事な点を説明してもらわなければ、初心者は誤った判断を下してしまいます。
あまりにも一面的な説明態度をこちらから指摘したのをきっかけに、客を「たかが素人」と見くびっていた「金融のプロ」は半ば逆切れして、客商売としては禁句とも言える
「お言葉ですが」
の言葉を発し、激論になった・・・
そんな記事を書いたところでした。
ノルマに押されて「金融商品を売らんかな」精神を前面に押し出す「金融のプロ」の真意を見定めるのは、非常に重要でありながら困難でもあります。
そういえば最近、このブログのダッシュボード画面やネットニュースの合間に、下記の
「100万円から始められる不動産投資」
「想定利回り7.0%」
「元本評価割れナシ12年」
をアピールする広告が盛んに掲載されるようになりました。
ほんの小さな文字で「広告」と示されてはいますが、ホンモノの記事と同列に並べられ、記事と間違えてクリックを促す絶妙のレイアウトには、思わず感心させられてしまいます。
テレビCMもよく見かけるほど、なかなか羽振りがよろしいようです。
キャッチコピーは
「お小遣い稼ぎ、しませんか?」
ここで言われる「利回り」も、商品の性格上あくまでも「想定」であり、「確定」ではありません。
「元本割れナシ12年」が事実だとしても、12年が15年であろうが20年であろうが、それはあくまでも「過去の実績」であり、将来も同様の利回りを「保証」するものではありません。
しかし、そうした実態が先方から説明されることはありません。
人間に例えると、
良い面ばかりを誇る見栄っ張りな人より、ダメな点も正直にさらけ出す人の方が、誠実さが感じられて信頼できるものです。