【懐かしい歌No.98 現・女優のアイドルデビュー曲】「卒業」斉藤由貴(1985)
「はやり歌」の世界で、季節の風物詩として取り上げられる題材のトップ3が
「桜」「卒業」「クリスマス」です。
このうち「桜」と「クリスマス」に関しては、すでにスタンダードナンバーとしていくつもの曲があふれているところへ、今でも毎年のように新曲が追加されて、一種の飽和状態にも見えます。
「卒業」をタイトルにした歌は、最近こそやや影をひそめた感がありますが、70年代以来、楽曲が多く発表されました。
1975年、ユーミンが荒井姓だった頃の「卒業写真」。
1976年、「わたしの彼は左きき」でアイドルの一時代を築いた麻丘めぐみが「卒業」をリリース。
1979年、倉田まり子のデビュー曲は「グラデュエーション」。
1998年、Speedの代表作のひとつに「My Graduation」。
2004年、「Secret Base~君がくれたもの」がヒットした4人組ガールズバンド、ZONEの楽曲にも「卒業」があります。
中でも1985年には、ほぼ同じ時期に「卒業」ソングが3曲ヒットしていました。
尾崎豊「卒業」。
菊池桃子「卒業~Graduation」
そして、本日取り上げた
斉藤由貴のデビュー曲となる「卒業」です。
尾崎版「卒業」は、歌詞が「支配からの卒業」で締めくくられているように、青年期の反抗をテーマにしたメッセージソング的な色彩が強く歌われました。
菊池版「卒業」は、すでに卒業してしまった4月になってから卒業写真のアルバムをめくる「思い出ストーリー」でした。
当時これだけの「卒業ソング」が世に出ている中で、あえて同じオーソドックスなタイトルで、しかもデビュー曲に起用するには、制作陣にかなりの勇気と自信がないと出来ません。
しかし、斉藤由貴の「卒業」には、そんなハンディをものともしないクォリティーの高さが随所に見てとれます。
歌詞には、卒業式1日だけでなく、「彼氏」との在学中のエピソードや思い出を丁寧に振り返ったあとで、旅立ちの当日を迎える微妙な心情が綴られています。
ひとつの「短編小説」のような「物語」があります。
楽曲の構成は、大まかにはAメローAメローBメロのシンプルなものですが、「物語」を完成させるため、ワンコーラスのうちAメロがアンバランスに近いほど「長い」のが特徴です。
16分音符でたくさんの言葉が詰め込まれているのも、ひとえに「文字数の多さ」からです。
「いつメロディーが展開するのか?」とやや苛立ったところで、
(1番)
卒業式で泣かないと
冷たい人と言われそう
でももっと 悲しい瞬間に
涙はとって おきたいの
(2番)
卒業しても 友だちね
それは嘘ではないけれど
でも過ぎる 季節に流されて
会えないことも 知っている
サビで、ようやく主人公の言いたかったホンネのメッセージが現れます。
同じ時期に松田聖子のヒットソングの作詞の多くを手がけて来た作詞家:松本隆の言葉選びのセンスは、この「卒業」でも如何なく発揮されています。
そして、史上最も売れた作曲家:筒美京平も、たくさんの言葉を華麗にメロディーに乗せて、随所に印象的なフレーズを散りばめています。
ゴールデンコンビの手による、まさに「名作」です。
斉藤由貴自身も、短命のアイドルに終わらず、女優としての活動歴の方がずっと長くなりました。
「歌手がダメになったから、女優に転身」パターンがすべてうまくいくほど、芸能界は甘くない世界。
堂々たる存在感だと思います。