【懐かしい歌No.55】「桜の栞」AKB48(2010)
まず初めに。
この歌は、ポップスのジャンルではありません。
「合唱曲」です。
AKB48という「ユニット自体」の構成や「姉妹グループ」、「公式ライバルユニット」などについて。
存在自体はもちろん知っていますが、この連載記事の主体は「楽曲」。
グループ誕生の経緯やチーム編成等の詳細までは、とても語り尽くせません。
そもそも、ひとりでCDを何十枚も買ったり、「握手会」に行きたいと願ったり…といった熱狂的ファンでもありません。
かつて「神7」という言葉が健在だった頃には、主要メンバーの顔と名前はかなりの程度一致していました。
しかし、それもいまや「過去形」になりつつあります。
そして、これは客観的な根拠のあるものではなく、あくまで感覚的な話ですが…
「ご本家」の「48」グループ(東京:AKB、名古屋:SKE、大阪:NMBなど)よりも、
「公式ライバル」と位置づけられた「坂道46」グループ(乃木坂・欅坂・日向坂)
の方に、勢いがシフトしている感もあります。
ただし…
さまざまに形を変えながらも、このユニットの名称が生まれてから今年で結成15年目を迎える「長寿グループ」になった、という厳然たる事実は消えることはありません。
「1曲売れること」は至難の業。
仮に大ヒットが生まれてもすぐ忘れられてしまう芸能界にあって、15年という歳月は限りなく重いものがあります!
「良い・悪い」、「好き・嫌い」の議論は別として、本人たち・プロデューサーをはじめとする周囲のスタッフ…
いろいろな意味で「大したモノ」だと感じています。
30年以上前、同じ秋元康プロデュースのもと「瞬間風速」的にブームになった「おニャン子クラブ」は、実質2年程度でその活動を終えています。
それと似た経緯を辿るであろうとの想定が、このような形で(良い意味で?)裏切られたこと、これだけの長期間にわたって支持され続けてきたことに、長年の「はやり歌愛好家」として、ある種の感慨を禁じ得ません。
近年でも、「新曲を出せば即ミリオン」の状況は大きくは変わっていません。
しかし、発売後すでに7年を経過した(レトロなムードを醸し出す名曲と評価している)
を超えるような、「記録よりも記憶に残るヒット作」が今後生まれることは難しいのでは?と見ています。
彼女らがこれほどの「旋風」を巻き起こす前。
つまり、CDをリリースしても「初動ミリオン」まではまだ届かなかった2010年。
シングルの歴史の中に「超・異色作」が存在していました。
どこを彼女たちのスタートとするかによって変わりますが、インディーズでない「メジャーデビュー曲」である「会いたかった」から数えると15作目に当たる
「桜の栞」です。
リンクをお聴きいただければおわかりの通り、およそ「J-POPの」「アイドルの」楽曲ではない!
学校の音楽の教科書に載っていてもおかしくないような、徹底した「女声混成合唱曲」のスタイルです。
作詞はもちろん秋元康。
作曲の上杉洋史は、自身も合唱の国際コンクールへの参加経験を持つ作曲・編曲家。
ゆえに、「合唱曲」として見た場合、楽曲の完成度は非常に高いものがあります。
シングルとして発売し「卒業式の定番ソング」になったら、との思惑ももちろんあってのことでしょう。
しかし、最近は「仰げば尊し」ではなく「旅立ちの日に」が主流となりつつあり、さらに卒業をモチーフにした数々のJ-POP作品が公式の場でも歌われるようになっているご時世。
そんな中、あえて「式典らしいテイストの歌」という「原点回帰」を狙って制作されたのではないか、と思わせる作りです。
バックは、ピアノ伴奏がメイン。
CD化に当たって、若干のストリングスアレンジが重ねられていますが、通常のポップス作品であれば普通に入っているベース・ドラムの音はありません。
サウンド面でも、あくまで「合唱曲」スタイルが貫かれています。
完成した作品では、かなり重層的かつ凝ったコーラスが披露されています。
ただ、ワンコーラスの終わりではちゃんと「ド」の音ひとつに集約されている。
気持ちの良い終わり方です。
誰がどのパートを歌っているかは、判別できません。
もっと言えば、本人たちがどこまで歌っているのかさえもわかりません。
これが高度な「レコーディングテクニック」によるものではなく「ナマのステージでこのレベルで」聴けたとしたら、合唱コンクールでもかなりイイ線まで進めるかもしれませんが(!)。
そんなヘリクツは抜きにして…
楽曲そのものは、印象的な美しいメロディーライン、そして旅立ちの時を桜に絡ませた歌詞の世界を純粋な気持ちで聴くと、「けっこうグッとくる歌」です。
10年前のメンバーたちの顔も、「懐かしい」です。
(曲は1分50秒くらいから)
<1番歌詞抜粋>
春のそよ風が どこからか吹き
通い慣れた道 彩りを着替える
喜びも悲しみも 過ぎ去った季節
新しい道 歩き始める
桜の花は 別れの栞
ひらひらと手を振った
友の顔が浮かぶ
桜の花は 涙の栞
大切なこの瞬間(とき)を
いつまでも忘れぬように…