【懐かしい歌No.78 絵描きが女優に恋をした。短編小説のようなストーリーソング】「百万本のバラ」加藤登紀子(1987)
東京大学在学中の1965年に、アマチュアシャンソンコンクールに出場して優勝。
1966年に「誰も誰も知らない」でデビュー。
(文字通り、私もその曲は知りません)
「お登紀さん」の愛称とともに彼女の存在が世に知られるようになったのは、1969年の「ひとり寝の子守唄」のヒットあたりから。
翌1970年には、森繫久彌作詞・作曲による「知床旅情」が大ヒットします。
彼女自身の作詞・作曲によるシングルも、数多く発表されています。
また、「愛のくらし」「灰色の瞳」「リリー・マルレーン」など、海外のメロディーに日本語の訳詞を付けて歌う歌手としても有名です。
中森明菜の名曲「難破船」の作詞・作曲者でもあります。
「百万本のバラ」
動画の冒頭クレジットにも出ているように、もともとは元ソ連・ラトビアの歌謡曲だったものに彼女自身が日本語の歌詞をつけた、1986年に発売のアルバム収録曲のひとつでした。
しかしこの曲への反響があまりに大きかったため、翌年に改めてシングルとして発売されたというエピソードがあります。
歌手生活50年を超えるキャリアの中で、代表作のひとつと呼べる楽曲となっています。
原曲の詞は、小国ラトビアの苦難の運命を語るものだったようですが、彼女自身の付けた訳詞は、その後この曲がロシア語版の歌詞で歌われた際の内容(ある画家が女優に恋をする)がベースになっていると言われています。
「♬貧しい絵描きが 女優に恋をした」
ところから始まり、
「♬大好きなあの人に バラの花をあげたい」
「♬ある日街じゅうの バラを買いました」
そして、
「♬百万本のバラを あなたにあげる」
「♬窓から見える広場を 真っ赤なバラで埋め尽くして」
結局貧しい絵描きの恋心は夢に終わり、報われることはないのですが、広場に散りばめられたバラの思い出は、彼の心の中から消えることはなかった…
3番までを使っての、ひと続きの「短編小説」のような「ひとつの物語」が見えてきます。
メロディーラインだけを追うと、やはり日本のはやり歌とはどこかしら違うテイストを感じます。
どこがどんな風に、と具体的に説明するのは難しいのですが…
ただひとつ大きな特徴としてあるのは、使われているハーモニーが3種類しかないこと。
ギター伴奏の際などによく使われるコードネームで、Ⅰ度・Ⅳ度・Ⅴ度という「基本の3和音」だけで、ワンコーラスが構成されているのです。
そしてワンコーラスの構成も、AメローAメローBメロ(サビ)というきわめてシンプルなもの。
「ストーリー性の強い歌詞の力」で、聴く者を魅了した歌であると感じています。