【懐かしい歌No.40】「まちぶせ」三木聖子(1976)
ユーミン作詞・作曲による「まちぶせ」。
石川ひとみが1981年にヒットさせた彼女の代表作として認識されています(ユーミンも後に自らシングルにしています)が、実はカバーなのです。
その5年も前、1976年に三木聖子のデビュー曲として発売。
それこそが「まちぶせ」のオリジナルなのです。
石川ひとみバージョンも、確かに素晴らしいです。
アイドルとひとくくりにされるのはもったいない、もともと歌唱力には定評があった歌い手。
この曲もキュートに歌い上げていますが、こと「まちぶせ」に関しては、やはり「本家」三木聖子を推したいところです。
一般にはほとんど知られていないと思われるだけに、なおさらそう思います。
制作に当たっては、三木聖子自身の実体験をユーミンが詞にした、と言われています。
また、何と言っても一生に一度しかない「デビュー曲」ですから、彼女が歌にかけた「思い入れ」は相当のものだったでしょう。
この曲の一番の聴かせどころである、サビの
「すきだったのよ あなた むねのおくで ずっと」の最高音「お」の歌い方に、そんな気持ちがこもっているようにも感じられます。
楽曲構成は、A-A-Bとシンプル。
しかも、それぞれのメロディーラインが美しく、かつ覚えやすい。
冒頭のAメロのバックのリズム、印象的な「ターン・タ・ターーン」のリズム、サビメロの変則的なベース音の使い方のコントラストが、アレンジ上実に効果的です。
片想いや淡い恋心を歌う詞は、女性アイドルソングのド定番です。
しかしこの歌は、
「好きだったのよ あなた」
と訴えながらも、自分から告りに行くわけではなく、
すでにカノジョがいるらしい「あなた」が自分に振り向いてくれるまで「まちぶせ」るのです。
ある意味、衝撃的なタイトルでもあります。
似たような主人公像は6年後の1982年、女性デュオ・あみんが、そのものズバリのタイトル「待つわ」で描いていますが、当時は非常に斬新な世界でした。
しかし、大切なデビュー曲は他人のカバーで大ヒット、かつ名前の「聖子」もあの歌手のほうが有名になって、彼女の心中やいかに?
(少なくとも自分だったら、と考えると、いたたまれない気持ちになりそうです)
三木聖子のシングル曲のカバーについては、実は「続編」があります。
彼女は「まちぶせ」の次に「恋のスタジアム」、そして3枚めのシングルとして「三枚の写真」というバラードタッチの楽曲を発表する(これも素晴らしい楽曲です)のですが、なんとこの「三枚の写真」も同じ石川ひとみが「まちぶせ」の次のシングルとして「かっさらって」いったのです。
もちろん歌い手本人には何の罪もなく(そもそも何を歌うかの権限自体持ち合わせていません)、制作スタッフサイドのあまりに安易すぎる「二匹目のドジョウ」狙いだったわけですが。
悲しいことに、三木聖子はシングルわずか3枚を残しただけで、この曲をもって芸能界を引退してしまっています。