【懐かしい歌No.35】「最後の一葉」太田裕美(1976)
タイトルから連想されるように、この作品は短編小説家として有名な
O・ヘンリー「最後の一葉」
をモチーフにしたストーリー仕立てとなっています。
太田裕美の活動初期のディスコグラフィーを簡単に振り返っておきますと…
1974年11月「雨だれ」でデビュー。
2作目「たんぽぽ」3作目「夕焼け」までは、ピアノの弾き語りでバラード調の曲を歌っていました。
一般的に弾き語りと言うと、シンガーソングライターのイメージです。
ところが彼女はそうではなく、いずれも70年代80年代の音楽シーンを支えた作詞:松本隆、作曲:筒美京平という最強のタッグによりシングル曲の提供を受けていました。
しかし、残念ながら3作目のシングルまで、売り上げはいま一つでした。
そして4作目のシングルとなる新曲。
ステージからピアノをなくし、同じ制作スタッフながら曲調をそれまでとはガラッと変化させて発売されたのが、彼女の代表作となった「木綿のハンカチーフ」です。
この曲を語るにはあまりに思いが強すぎ、また大ヒットしたためリアルタイムでなくてもご存知の方が辛うじて(?)いらっしゃると思うので、今日はあえて別の曲を取り上げてみました。
「木綿のハンカチーフ」で(当時はアイドル的に)知名度を上げた彼女。
続く「赤いハイヒール」でもヒットを続け、6作目のシングルとしてこの「最後の一葉」を発表します。
この曲は、デビュー曲「雨だれ」にサウンドイメージが似た3連バラード。
ステージも、「原点回帰」で再びピアノ弾き語りスタイルに戻ります。
しかし今度は、前作までのヒットで得た人気と、抜群のセンスにあふれた作詞の力も手伝って、今度はベストテンヒットとなりました。
その詞の世界は…
冒頭の「この手紙着いたらすぐに お見舞いに来て下さいね」の一節で、女性主人公が入院中であることがわかる。
しかも、2番の歌詞には「命の糸が 切れそうなんです」とあり、かなり重い症状であることも。
季節は秋から冬へ。
レンガ塀に付いた林檎の枯葉が1枚1枚落ちていく中、あの「最後の一葉」が落ちたら自分の命も消えてしまう…
そんな絶望的な状況にあっても、愛する人のことを思い、(病人の私と一緒にいるよりも)「別れた方が あなたにとって 幸せでしょう わがままですか?」と健気に語る主人公。
しかし、彼女が命の望みを託していた、枝に1枚だけ残された木の葉は、実は恋人が
「凍える冬に 散らない木の葉 あなたが描いた 絵だったんです」とラストでわかる。
ただ、主人公の病がその後無事に治ったのか、恋人とはどうなったのかは、謎のままです。
このような「濃くて重い」泣けるシチュエーションが、アイドルポップスの詞になりうるのか?と驚きながら聴いたものです。
ストーリー全体のドラマチックさもさることながら、
「秋になる」ことを
「街中を秋のクレヨンが 足早に染め上げてます」
と描写してみたり。
「冬である」ことを
「木枯らしが庭の枯葉を 運び去る白い冬です」
と表現してみたり。
作詞家・松本隆の繊細な表現力・ボキャブラリーはいったいどこから来るのか、とただただ脱帽です。
珍しく詞の方に力点を置いたコメントになりましたが、メロディーは3連バラードの王道を行く、詞をしっかりと受けとめた、文句なしの筒美京平ワールド全開の作品です。
(上のリンクがシングル盤の音源です)